人を幸せにする人になろう

行政の調査と大学

◆大学と行政は連携して互いのためになればよい。それは思う。教員の専門からお役に立て、自分の研究にもなるんだったら、やったらよい。だけど、発掘を請け負うと、あとあと大きく縛られる。むろん、資料整理など、地元行政がかなりやってくれるのが一番楽。
◆両者がためになるのが一番良い。ただし、両者がためになるためには、よくよく頭を使わなければならない。そううまくいくことが、むしろ少ないかもしれない。中町東山古墳群の調査は、地元のMさんが実にしっかりした人だから、京都府立大学も力を発揮し、立派な報告書ができ。加古川市のなんとか古墳は、地元がダメだし、大学教員もだらしないから、発掘から15年、報告書は出ない。
◆わたしも失敗している。玉手山7号墳の第1次調査の時、欲を出して、報告書刊行費を地元で予算化してもらった。だけども、わたしは出せなかった。予算化した以上、なんにもなしでは困るから、2002年度の第2次調査を踏まえて、簡単な概報を出した。けれど、この16頁冊子を出すのさえ、2003年度上半期を費やし、地元の柏原市に多大な迷惑をかけた。こういうこともあって、柏原市はうちの調査を慎重に見ている。それはしかたがない。それだけの失策をこちらがやったので、信用はまだ取り返せないから。1号墳、3号墳と、こちらがキチンと報告書を出すことが何よりも大事だ。
◆そういうこともあって、わたしは行政に金を出してもらうことは基本的にやめた。こんな人間なので、報告書が期限通りに出ることはない(胸を張って言うことではない)。公金にしばられず、したがって時間に縛られず、しかし、納得のいく報告書を出すことを心がけている。金は自力でなんとかせなしゃーない。一度、京丹後市神明山古墳の時、基準点測量と伐採をしていただき(これは地元の自発的なもの)、やりきれなかった範囲の補足調査の滞在費を市史編纂でお願いできないか、また欲を出したこともあったが、やめた。
◆行政が報告書を予算化し刊行物として発行し、編集費をまかない、紙代だけで増し刷りし大学の刊行物とするという手法は、わりあい常套手段である。それで、ひとつの調査について、互いが連携し、ひとつの報告書だが、行政の成果物にもなり大学の成果物にもなる、一石二鳥の方法で、そういう風にしたらとアドバイスも受ける。でもやめとこうと思う。期限通りにきっと出せないから。
◆わたしは行政は、なんか遺跡整備をしたいと思ったとき、特殊な遺跡で、どうしても専門家を入れて調査しなければならないこともあろうが、基本的に集落でも窯跡でも古墳でも、自分のところでできる場合にやるべき、と思っている。自力でできそうにないなら、指定・保存をやっておいたらよい。整備までしようというなら、行政がそういう体制を整えてやるべきだという考え。おいしい古墳がある。それを発掘してもらえませんか、ときても、よっぽど、自分の研究ピンポイントでなければ請けないつもりだ。
◆より重要なのは、大学は、大学で、大学らしい目的の明確な調査をすべきだ、ということ。したがって、偶然的に合致する場合がありうるが、行政目的の調査と、大学の調査は別物と思っている。どこかの先生は、いろんな仕事で、頼まれ仕事をし、学生はそういう調査をやっている。学生は整理するのも謝金をもらうのが当たり前と思っている、という話も聞く。それもひとつの行き方で、それで学生が育ち、刺激を受け、論文も生産されるのだろう。そういう風にうまく回るのなら、それでもいいが、どうもうまくいっているようにも見えない。また、うちでは、そんな風にうまく回す自信はまったくない。
◆もうひとつ。行政とタイアップすることは、大学の社会的認知につながる。記者発表などもやりやすい。記事になる。世間のお役に立っている。上層部も目にする。よくやっている、学生も来る?・・・。うらやましい限りである。ほんとうにそうであるなら、それでよい。だけど、花火を打ち上げているところの調査は、あとあとまでうまく完結させられているだろうか。同じようにマスコミ受けすることを考えれば・・・、新聞に載って、大阪市大の調査を世間に広く知ってもらえるのはうらやましい限りである。象牙の塔にとじこもっているのでない、社会的に役に立っているんだと、わかりやすい。だけど、禁欲的に行こうと思う。いい調査をやっていけばよい。別に新聞に載らなくてもよい。アピール力がなくてもよい。それは、そういうことに長けた人がやればよい。おれはまったく性にあわないので、背伸びしないことだ。
◆なんかタコツボに籠もっているようだ。しかし考古学の専門家として、埋蔵文化財行政の世界でお役に立てる場面はほかにもある。行政は行政、大学は大学、一旦掘れば報告書まで責任の発生する発掘調査、そこは仕切りをつけといた方がよいと思っている。

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プロフィール

HN:
雲楽
年齢:
60
性別:
男性
誕生日:
1964/03/22
職業:
大学教員
自己紹介:
兵庫県加古川市生まれ。高校時代に考古学を志す。京都大学に学び、その後、奈良国立文化財研究所勤務。文化庁記念物課を経て、現在、大阪の大学教員やってます。血液型A型。大阪府柏原市在住。

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