人を幸せにする人になろう

日本の遺跡保護行政

◆なんとちゃんとしているのでしょうか。そして、活用なども進んでいる。上からという批判もあるが、それは遺跡保護だけではない。西欧的な市民の権利や意識を長年育んできた社会と、明治に導入され大正デモクラシーを経て、戦後にようやく本格化した日本との差があるのは当然(が保護の点では上回っている)。行政が必要な政策を定着させるために上から導入していくというのも、日本では必要なことだったのであり、基盤整備はできてきたわけで、いま各地で動いているように、市民が参加して整備計画に携わったり、日常管理にあたったりというのは、その上に育っていけばいいのである。
◆坂井さんの報告に対する杉本さんコメントは実によかった。まとまった活字にして欲しい。ちゃんとメモを取れていないが、覚えている限りでは、記録保存の定着はいいことなのだが、それによって遺跡を壊し続けていることへの意識が希薄になっているのではないか、というのがひとつあった。これ、九大移転地の時に岡村さんが言っていたのを思い出す。システムとしての定着は日本の行政のいいところではあるのだが、処理するだけでいいのか、極端に言えば、すべて残せないのか、といった構えで臨むくらいの心意気が必要なのではないか、ということだろう。上は極端で、現実的には、こんなん壊してええのか、という思案がないということの危機感を指摘したものと理解する。で、現実そうなわけで、よっぽどでないと残せていないということ。意識を変える必要があると。相当の覚悟が担当者に必要だという言葉も重い。
◆これも市民の意識などにも通じますね。コンクリートから人へだったか、これからは文化だとか、人づくり、意識づくり、街づくり、そういうものに対し、オカミがきめたことに唯々諾々従うのでなく、それぞれの地域でコミュニティで、こうあるべきなんとちゃう、大事なんちゃう、ということを(原発反対もまったく同じ)、人々がそれぞれ考えを言う、それでこの社会を作っていく、ということが求められている。政策的にも街づくりが打ち出されている中で、遺跡は開発に邪魔なだけな存在という考え方ももはや古く、文化財担当者は、もっと堂々と文化財のもつ価値を主張し、政策決定の欠かせぬファクターとして食い込んでいく(活用の話であれ壊す話であれ)、そういう下地ができつつある社会へと進んできているんではないか、ということでもあると思う。

念のため

◆遺跡という一般名詞があり、学術的に人類の痕跡全般をさすとされているので、これは無限大。それに対し、文化財保護法の対象とするものについての用語が必要で、いまの実態はそれが埋蔵文化財。前に書いた、第2条の文化財が土中にある状態といったヘンテコリンな定義はともかく。つまり、実態として、埋蔵文化財に相当する言葉が必要なのである。
◆学術上の無限大の遺跡と同じ言葉ではまずいということは理解できる。しかし、実際のところ、いま運用されている埋蔵文化財と、われわれの通念的な遺跡とはそんな乖離はない。一般市民の理解でも、違わないだろう。つまり、どういうものの場合に、開発行為で残せないときに調査するかという範囲について、遺跡と言っても社会通念的にほぼ近似した理解にあって、遺跡を使うことで困らないだろうし(法律上困らないようにする工夫はできるはずだ)、わかりやすいのである。埋蔵文化財という、何ですかといわれる用語でなく、法律用語としても遺跡を使う方が理解をえやすく、世界的に見てもそうすべきなのだ、ということ。
◆所詮、法律ではあるが、世間との意思疎通の上で、媒介を必要とすることは、理解を求める上で、邪魔になるだけだ。

で、埋蔵文化財

◆埋蔵文化財という言葉は確かに定着したが、捨て去るべきだと考えている。定着したのは業界で、世間とずれているから。説明しなければならないだけ無駄。
◆文化財保護法。
第2条、この法律で「文化財」とは、次に掲げるものをいう。
1 建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの・・・、
4 貝づか、古墳、都城跡、城跡、旧宅その他の遺跡で我が国にとつて歴史上又は学術上価値の高いもの・・・(記念物)。
第92条 土地に埋蔵されている文化財(以下「埋蔵文化財」という。)について・・・。
第109条 記念物のうち重要なものを史跡・名勝・天然記念物・・・に指定することができる。
◆日本の文化財保護法で、われわれが通念的に遺跡と考えているものを埋蔵文化財といい、それは、この法律でいう文化財で土地に埋蔵されているもの、という定義のされ方をしているのである。世界の法律では考古学的遺跡とか、ちゃんと遺跡となっている。埋蔵文化財の章を、ちゃんと遺跡として、その遺跡の範囲は行政で決めるという構えにすべきなのである。和田さんの教えでは、「建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの・・」をはじめ、第2条の定義にあたる文化財が土中にある状態を指すのが埋蔵文化財なんだと。とはいえ、第4項で遺跡は別に出てくる。へんてこりんで支離滅裂。
◆こんなもの、頭のいい人が現状と変わらないことになる言い方に変えてくれればいいのである。あるいは変えたって、ぜんぜん影響がないほどに「埋文行政」は成熟している。
◆現実的な運用は、第4項の、貝づか、古墳、都城跡、城跡、旧宅その他の遺跡で我が国にとつて歴史上又は学術上価値の高いもの・・、これが届出対象の埋蔵文化財で、そのうち重要なものが史跡になる。記念物というくくりを維持するとすれば、遺跡(いわゆる遺跡+旧宅みたいなやつ)>記念物(重要なもの)=保護法の文化財>史名天(特に重要なもの)という構造。でもまあ旧宅みたいなものも含めて「貝づか、古墳、都城跡、城跡、旧宅その他の遺産で」とでもして、埋蔵文化財の章のところで、第92条 第2条第4項の「貝づか、古墳、都城跡、城跡、旧宅その他の遺産で我が国にとつて歴史上又は学術上価値の高い」文化財のうち、土地に埋蔵されている文化財(以下、遺跡という)について、その調査のため土地を発掘しようとする者は、文部科学省令の定める事項を記載した書面をもつて、発掘に着手しようとする日の三十日前までに文化庁長官に届け出なければならない。でもいいんではないか。
◆だめ押しするとすれば、届出を要する遺跡が所在すると周知されている土地については、都道府県教育委員会が定めるものとする。を加える。これによって、なんでも届出対象にしえたものが制限されるという危惧はあるかもしれないが、そこは文化庁の通知もあるわけで、すでに考え方は整理されており、いまやっていることができなくなることはないのではないか。

考古学研究と埋文行政

◆坂井さんが話したとおり。考古学という学問は自由で、その調査対象も無限に広い。条件が整うなら、なにを調査してもいい。しかし行政は違う。原因者負担で事業者に経費を求めるためというだけでなく、行政が保存目的の調査を行う場合も税金を投入するわけで、やはり社会通念的に大方の合意をえられる対象でなければならない。そのために文化庁は学問の進展により見直していくべきものと但し書きをした上で、対象や、本発掘調査の範囲のくくり方などを定めたわけである。文化財保護法を行使して届出を求め、また行政指導として経費負担を求める場合、対象とする埋蔵文化財包蔵地は、人間の残した痕跡すべてともいえる遺跡とイコールではありえない。それは行政が範囲を決めるものであり、範囲を特定することは当たり前なのである。

考古学とは何か(2)

◆遺跡にもとづく歴史学。別に遺物を軽視しているわけではないですよ。遺物研究の可能性はすごいもの。が、遺物も遺構も含めて、われわれが相手にしているのは遺跡なのであって、遺物研究を当然に含むわけだ。遺物を研究すること、遺構を研究すること、そして遺跡を総合的に研究すること、これが考古学研究であって、資料は遺跡なのです。
◆もうすこし書けば、遺物研究も遺構の研究もそれ自体の価値があるのはむろんだが、やはりそれは遺跡の評価ののためにあるといってもいい。そしてその蓄積によって、ひとつの遺跡も地域の中で位置づけられる、評価できる。そういう遺跡の分布、動態、それにもとづき人の営みを明らかにしようとしているわけだ。
◆大学の調査が、研究者の研究課題に照らして選択されるのは確かだろう。なにもないけど掘りたいというのはもはや許されない。古墳で言えばお宝をもとめて、とにかくでっかい古墳のまん中を掘るなんぞ、もはやありえない。そして、研究者の研究課題といった場合、完全に特定の遺物をえるためとか、特定の種別の遺跡の解明といった目的で行われるものでもない。遺跡が地面にある以上、その地域のなかで考えるものであって、大学の調査でも、まずは地域史研究であるのが当たり前なのだ。

考古学とは何か(1)

◆遺跡にもとづく歴史学。過去人類の残した物質的資料にもとづき人類の過去を研究する学問である、といった定義は捨て去るべき。物質的資料というのは遺構も含めてですよ、ということを常に言い添える必要がある。過去、産業革命時に出土する先史遺物が博物館に持ち込まれ、そこから3時代区分を導いたり、クラシカルアーキオロジーがギリシャローマの彫刻などに関心を寄せたり、遺跡と遊離したブツが研究対象となってこの学問が出発したかも知れないが、もはや遠い過去である。
◆まどろっこしい定義は捨て去り、いまの考古学の行為は、遺跡に基づく歴史学というのでほぼ99%カバーできるだろう。伝世品は扱わないのか、といった指摘は愚問、やったらいいではないか。われわれの相手にしているのは遺跡なんです。
◆歴史学か人類学か、人文学か。これもまあどうでもよい。歴史学といってしまうと先史や旧石器時代はなじまないような気がするというのもわからないではない。時間の流れ方が違っていて、変化というより考古学的な同時存在のなかでの生態を明らかにすることの方が主で、重要で、多くを占めるということかもしれない。しかし、歴史時代であっても、遺跡を調査してどうするかと言うとき、時間軸で変化を追うことも、生活様式全体を解明することも、地域的に広げていくことも、古い時代でも新しい時代でも同じように必要なことである。
◆過去の人々の営みを明らかにするということでは同じ。それを歴史学という言葉でくくってもいいいし、人類学といってくくってもいいし、人間学でも人文学でもいい。いずれにしても、遺跡が資料で、古い新しいはあれ過去を扱うわけだから歴史学といって問題はないのでは。これは言葉の問題。
◆マイヒストリーか、アワヒストリーか、ユアヒストリーか、ザヒストリーか。それは根っこのところにはあるのかもしれない。が、遺跡を調査してなにがしかを明らかにしようとするときに、それによって差があるのはよくない。われわれは遺跡を通じて事実を明らかにしようとしているはずである。旧石器時代など日本史でないというのは理解できる。が、また考えることにして、まあ日本列島の歴史のことという意味である。むろん琉球列島や北海道の歴史など、かなり記述も増していると思うが、どのように取り上げていくかは引き続き考えなければならない。

まず考古学と考古学研究

◆考古学研究会の直後に書き留めたいと思ったことも、結局、すぐに書けていない。明日の授業の準備もあるが、風化する前にいくつかを書いておきたい。いまの日本の考古学研究を見直すということだが。
◆まず学問は誰しも自由に取り組めるもので、営みであり行為のこと。どんな職種の人がやったっていいい。研究機関の人も、行政の人も、調査機関の人も、博物館にいる人も、あるいはこうした職種でない人も、老若男女だれしも。プロアマをそれでメシを食っているかどうかとすると区分は可能だが、あまり本質的ではない。学問である以上、学問としての水準で評価すべきもの。
◆それとは別に職がある。研究機関に所属する者、埋文行政に携わる者、発掘調査に従事する者、博物館に勤務する者、それぞれ職があり、それでメシを食っている以上、職務に専念する必要がある。埋文行政に携わる者も、行政を行う上で、試掘確認や発掘を要するといった判断や、保存目的の調査や、史跡指定などを進める上で、考古学研究そのものにかかわり、考古学研究の成果にもとづき判断したりするわけである。むろん、遺跡を調査してその成果をまとめることは考古学研究そのものであり、職務そのものでもある。そして、個人的に論文を書くなどのことは、仕事に拘束される時間以外で、やることはまったく自由である。
◆大学人がずっと論文を書き続けているわけでなく、授業もせなあかんし、学内業務もあるし、学生の世話もするし、論文を書くことが研究の主要な部分としても、勤務時間内にどれだけやれるかは、程度問題だと思う。
◆で、考古学をやりたい人間がいろんな職場におり、みんな同志なのである。いがみあうことはないし、別のものと考える必要はない。学問は、職や性別や年齢に一切関係はない、自発的な人間の営為である。

前方後円墳から方墳へ

◆谷首古墳のリーフレット用に図を作成してみました。いまの自分の認識です。5a9b0413.jpgシシヨ塚は組み込めてませんね~。

ひとつの時代が終わる

◆まったく個人的なことです。

このブログ

◆考古学研究会の大会に行ってきました。眠いし、明日もあるし、寝た方がいいのだが、いくつか書いておきたいことがある。大会でいろいろと刺激をもらったので、それはおいおいと書いていくとして。懇親会に行ったのは久しぶりだった。何人かの方にこのブログを読んでいますと。そこそこの影響力があるらしい。若い学生さんたちも読んでくれているようで、若い人たちへ、学問的なことのみならず、いろんな種を播くひとつの手段にもなるわけだ。坂井さんの報告や討論にあったような、日本の遺跡保護について次世代に自分たちの経験や考えを伝え、継承していってもらうための、自分なりの手段となる。そういうことも意識して書いていこう。むろん書き方も注意していかないといけない。むろん自分が絶対正しいなどということはないわけだが、まあこっちの方が正しいといえるものであるにしても、どう伝えるかは難しいことである。

プラグイン

カレンダー

01 2025/02 03
S M T W T F S
1
2 3 4 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28

カテゴリー

フリーエリア

最新コメント

最新トラックバック

プロフィール

HN:
雲楽
年齢:
60
性別:
男性
誕生日:
1964/03/22
職業:
大学教員
自己紹介:
兵庫県加古川市生まれ。高校時代に考古学を志す。京都大学に学び、その後、奈良国立文化財研究所勤務。文化庁記念物課を経て、現在、大阪の大学教員やってます。血液型A型。大阪府柏原市在住。

バーコード

ブログ内検索